豊橋の町に入ると神鋼電機の看板が見つからなくて、省エネらしい新しい看板がかかっていた。世の中は変わってきたなと思う。おいしいちくわで有名な町だ。一つ買って帰ろうと思っていたが、快調に走っているときは停車するのがもったいないような気がして、通り過ぎてしまった。「潮見坂の道の駅」に寄ってみた。車と人が一杯だった。ちくわは置いてなかったが、味付けされた味噌とわさび漬けの金印というのを土産に買った。駐車場でハーレーダビッドソンのグループの人が話しかけてきた。「そのナンバーはどこのプレート?」。「神奈川県の鎌倉の隣町さ。」と答えると、「えー、これから鎌倉まで帰るの?して、どこから来たのさ?」とまた聞かれたので、「岐阜の大垣からです。」と答えると、「それって旅だよな。気をつけて行きなよ。」と送ってくれた。
 ここを過ぎると、国道一号線は、ほとんどバイパスの連続で、町に入ることなく、ひたすら壁の中を走るような形になっている。浜名湖の橋からは、遠くまで眺めることが出来たが、外はあまり景色を楽しめなかった。中田島砂丘を右に見て、ひたすら走った。最初からそうだが、ひっきりなしに後ろを気にしなければならない。というのは、原付は最高制限速度が30km/hで、これを守っていると、いつ家に着くか分からない。単純に計算すると400kmを30km/hで割ることになり13時間を越えてしまうのだ。これに信号待ちや、食事や買い物の時間を加えると軽く20時間くらいになってしまうだろう。仕方なく速度違反を承知で走ることになる。常に50km/hくらいは出している。このくらいでないと、車の流れから大幅に遅れて却って危ないのである。ちなみにスーパーカブは、最高速度が60km/hくらいである。50km/hでもエンジンの回転数は7500rpmくらいになっている筈である。浜名湖、磐田、袋井、掛川とバイパス続きで、人々を見かけない。途中、信号待ちで止まっていると白バイの巡査が声をかけてきた。「路側を走るのは危険なので、止めてください。」と言う。「分かりました。」と答えて、しばらくは路側を走るのを止めるが、渋滞していると、やはり路側をすり抜けて行きたくなり、禁を破ってしまう。
 浜松の東の端で、トイレに行きたくなり、バイパスから外れて市街地を目指したら、直ぐのところに交番があり、ここで借りることにした。巡査が快くどうぞお使いくださいというので用を足させてもらった。巡査は、職業柄いろいろと聞いてくる。「どこから来てどこへ行くのか?」、「大垣から逗子まで。」と答えると、「それは大変だな。気をつけて行ってくださいよ。」と送り出してくれた。
 藤枝のバイパスに入ったところで、雨が当たってきた。雨具を着けようと思い一般道に下りて、トラックのヤードの大きな屋根の下に停めて、着替えを済ませた。戻ろうとしてエンジンをかけると、また吹き上がらない。今度は暗くなりかかっているので、明るいところを探すと、直ぐ近くにガソリンスタンドがあった。ここで再びキャブレターを分解すると、燃料のフィルタにごみが付いていた。これをきれいに掃除して、また組み立てると、今度も機嫌よく回り始めた。かなり長い間乗っていなかったバイクらしい。
 すっかり暗くなり、雨もぽつぽつと当たっているので、すっかり戦意を殺がれてしまう。10年以上前のことであるが、藤枝のビジネスホテルに一週間くらい泊り込んで新幹線の設備の調査をしたことがある。そのときのホテルが空いていれば、そこに泊まって、明日ゆっくり走って帰ろうと思った。国道1号に戻り、藤枝の町を目指すと、そのホテルは記憶どおりのところに在った。直接支配人に空室を尋ねると、「どうぞ。」と部屋を用意してくれた。時刻は19時近く、ここまでの走行は200kmを超えている。
 一安心したら空腹を覚えたので、支配人に食事の店のいくつかを聞いた。日本料理の店というのが気になって、「とくまん」という店まで歩いて行った。道は暗く店もほとんどないさびしい町である。5分ほど歩くと、とくまんは、見つかった。料亭である。玄関を入るが誰も出てこない。奥のほうまで入り込んでいって、「こんばんは」と声をかけると、お上さんらしい人が、「失礼しました。お食事をなさりたいんですか?」と言うので、お願いしたら、一番入り口に近い部屋に通された。この店にはテーブル席はないらしい。座敷に一人は落ち着かないが、ゆっくりと食事の出るのを待つことにした。注文は、この店の定番定食だ。新聞も雑誌もテレビもない部屋で静かに待った。15分くらいすると食事が出てきた。刺身にてんぷら、蒸篭に煮付けとフルコースだ。シュウマイと春巻きのあいのこのような蒸かしものは、えびか何かが入っているらしく、おいしかった。刺身は中トロと鯛が添えられていて、これもおいしかった。てんぷらは衣が軽く揚げたてで、さくさくしている。茶碗蒸しはやけどをするくらい熱かったが、よい味付けである。ご飯が足りないのではと思ったが、食べ終わったら、もうこれ以上は入らないくらい満腹であ
った。満足して代金を支払う。ホテルまでの帰り道は行きの倍くらいの時間がかかった。途中、コンビニに寄って、朝食のパンとコーヒーを買った。ホテルに戻ってシャワーを浴び、テレビでも見ようか、日記でも書こうかと思っているうちに寝てしまったようだ。
 朝5時に目が覚めた。お湯を沸かして二度寝をしようと思ったが、もう寝付かれないのでそのまま起きて着替えた。コーヒーを淹れて、パンをかじる。コンビニで買った名前はフランスパンというのはとても甘かった。コーヒーがもう一杯要るなと思ったが、あきらめた。ばらばらに置いた荷物を、まとめなおして出発の用意が出来た。6時50分にチェックアウトして、国道一号線に出る。まだ車の数は多くない、時速50km/hで、残りは170kmくらいか、また長旅だ。ホテルの支配人は「お昼には着けるでしょう」と言う。「時速30kmでは無理でしょう」と答えると、「10kmくらいのオーバーでは捕まりませんよ」と言う。それもそうですねと言って出てきた。
つづく(2/3)